脳外科志望の研修医、増加に転じた理由

厚生労働省の調査で、初期臨床研修を終えた研修医のうち、脳外科を志望する人の占める比率が過去10年間で2倍に高まっていることがわかった。食文化の変化が診療科の選択に影響を与えたとみられる。

脳外科医を志望する研修医の比率は1993年には2.1%だったが、高い訴訟リスクや、医者にかかるストレスの大きさが敬遠されて、2003年には1.1%まで落ち込んだ。ところが、今年はこの比率が2.1%に上昇した。脳外科と同様に高リスクとされる産婦人科で志望者の減少傾向がなおも続いているのに、脳外科で志望者が増加に転じたのはなぜなのか。

名古屋県立大学の飯田利夫教授(脳外科)は、開頭手術への恐怖感をまったく持たない若者の増加との関連に注目する。

「人体で最も大切で精密な頭部にメスを入れるのだから、怖気づくのが当たり前。恐怖感の克服が脳外科医への第一歩だったのに、最近の若者はまるで平気な顔をしている。奇妙なのは、脳外科以外の分野でメスを怖がる研修医が昔よりも多いということ。中学の理科、高校の生物の時間に解剖を経験していないのだから、むしろそのほうが自然だ」

研修医たちが脳外科だけを例外視している理由は、医学生の弁当箱の中身を見れば明らかになる。名古屋県立大学医学部の学生のうち、母親や自分で作った弁当をほぼ毎日持参している人は125人。弁当のうち実に3分の1以上が、アニメやマンガのキャラクターをモチーフにした「キャラ弁」だ。ピカチュウ、キティ、チョッパーなど内容はさまざまだが、いずれも玉子、ウィンナー、のりなどを自在に使って、キャラクターの頭部を弁当箱いっぱいに表現している。細部までリアルに描写され、食べるのがもったいない力作も多いが、学生はスプーンや箸で躊躇なくキャラクターの頭部を崩していく。

飯田教授の聞き取り調査によれば、いまはキャラ弁を持参していないが、幼いころや中学、高校まで母親がキャラ弁を作っていた人も含めて計算すれば、キャラ弁の頭殻内に切り込んだ累積回数は1人平均で500回を軽く超える計算になる。「脳外科に進む前、いや、医科大学に進む前から彼らは膨大な数の脳外科手術をこなしているようなもの。他の分野の手術と較べて抵抗感がないのもうなづける」(飯田教授)

ただ、学生がすべてのキャラ弁をためらいなく食べているわけではない。今年3年生の大山可奈子さんは、週1回、大きなタッパー容器の中に入った母特製のシチューパイを持参して大学までやってくる。容器にかぶさったパイ生地で立体的に表現されているのは、大山さんが子どものころから大好きな「リラックマ」。料理自慢の母が作っただけに見事な出来栄えだが、大山さんはスプーンで割るのは忍びないと苦笑し、シチューが冷めるのを待ってからストローを取り出す。容器の縁に近い部分に小さく穴を開け、差し込んだストローでシチューや野菜、肉などを器用に吸い出した。

口をナプキンで拭いながら「まだどんな診療科目に進むのかは考えたこともない」と笑う大山さんだが、脳外科講座の教官たちの間では「カテーテルの天才が現れた」と早くも評判だ。

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