鮮やかさが左右する観光地評価

1位 ギリシャ エーゲ海
2位 スペイン トマト祭り
3位 ブラジル リオのカーニバル

 日本観光学会が19日に発表した2013年度「世界行ってがっかりしたランキング」は、観光業界の関係者に衝撃を与えた。過去の調査で「不動の世界三大がっかり」といわれたシンガポールのマーライオン、デンマークの人魚像、ベルギーの小便小僧が、そろって圏外に去ったためだ。

「長年夢見ていたのはもっと鮮やかなブルー。エーゲ海の空も青も予想よりくすんでいたのにはがっかりした」

「街中がトマトで真紅に染まるのだとばかり思っていた。実際には黄色やオレンジを帯びているところもあり、まんまとだまされた」

「カーニバルの踊り子たちの衣装に白や灰色、黒が混じっていた。あれはリオではなく、中欧あたりのくすんだ色ではないか」

ワースト3地点を訪れた日本人観光客からの厳しい批判の声には、「色」という共通点がある。

「かつて観光スポットに求められたのはスケールの大きさや日常とかけ離れた珍しさだった」と指摘するのは40年以上のツアーコンダクター経験をもつ旅行評論家の大澤千晶氏。「デジタルカメラの普及で状況は一変した。今では何よりも色、なかでも液晶画面に映したときの色の鮮やかさが重視される。画像でイメージの中の観光地はどんどんカラフルに、鮮やかになっていき、ハードルが上がった結果、現地を訪れてがっかりする人が多い」

鮮やかな色をめぐる観光地間の競争の導火線となったのは、デジカメ・メーカー各社間の開発競争だった。いまや家電量販店で売れ行きを伸ばしているのは、被写体の色を忠実に記録する機種ではなく、大げさなほど色を鮮やかに補正する機種だ。メーカー間の激しいライバル競争の結果、札幌雪まつりの雪像が最新のデジカメに色とりどりの「ねぶた状態」で記録されているのはいまや常識だ。

画像編集ソフトの普及も鮮やかさの競争に油を注いでいる。デジカメが撮影時に自動補正した画像データをユーザーが手動で再補正するのはもはや常識で、無補正画像は時にネット社会から激しい批判にさらされる。

40代の団体職員、梶本愛海さんは、週末ごとに郊外のおしゃれなカフェやレストランを訪れ、補正した写真付きのグルメレポートをブログで公開しているが、補正を忘れて公開した農村カフェの料理の写真には、愛読者から「まずそう」とのコメントが殺到。保健所にはこのカフェが不衛生な環境で営まれているとの虚偽の情報も寄せられた。

色鮮やかな画像が人の心をつかむことはデータにもはっきりと表れている。東京女子大学の巻田甫教授(色彩認知学)の調査では、facebookで公開される画像の鮮やかさと「いいね」ボタンを押される回数との間にははっきりとした正比例の関係が、「不適切な画像」として報告される頻度との間には反比例の関係があることが確かめられた。

巻田教授は、補正された画像に触れる機会の多い人、251人をMRIにかけて大脳の状況を調べたところ、そのほとんどで慢性的に色覚中枢が興奮状態にあることがわかった。「麻薬の大半の押収量が伸びているなかで、1960年代のサイケブームのころからLSDの押収量だけが一貫して減少している理由がようやくわかった」(巻田教授)

コンピュータ社会での色の鮮やかさの独り歩きは、観光地に思わぬかたちで影響を及ぼし始めている。北海道東部観光ガイド協議会の杉尾高駿専務理事は、世界有数の透明度を誇る摩周湖で観光客の減少傾向が続くのは、派手な画像への信奉の結果だと語り、眉をひそめる。

「透明度はデジカメに映らない。湖底にカラーパターンを沈めて、デジカメユーザーにも湖の魅力をわかりやすく伝えることも必要なのではないか」

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