事件簿2013 SOSはなぜ見過ごされた?

15日に都内で、数日間にわたって絶食状態にあったとみられる65歳の男性が自宅マンション内で倒れているのが発見され、病院に搬送された。現場は5階建てマンションの3階。男性のSOSはなぜ見過ごされたのか──。

「関西で暮らす息子さんから、何日も連絡が取れないので様子を見てきてほしいと頼まれたんです。錠を開けて室内に入ると、居間に意識を失った状態で倒れていました」と証言するのはマンションの管理人だ。「手にはコードレスホンが握りしめられたまま。頬はこけて、明らかに数日何も食べていない様子でした」

男性は5年前に60歳で退職するまで信用金庫に勤務していた。その後、病院でのボランティア活動に従事したり、近所の公民館で社交ダンスを習うなどしていたが、そばにはいつも妻の姿が。マンション住民の間では「おしどり夫婦」との評判だった。

男性の様子が最後に目撃されたのは10日の朝。トランクを引っ張りタクシーに乗り込む妻に向かってベランダから手を振っていた。「不安な表情を浮かべていたのが印象に残っています」と、その時ちょうど買い物から帰ってきた同じ階の主婦は証言する。

警察の調べによれば、夫婦が暮らす部屋の冷蔵庫には、肉、魚、野菜、果物、ケーキなどが大量に入っていたが、どれも手をつかずだった。男性の長年の友人は「彼は40年以上にわたって仕事一筋。家のことは何もできないはずです。冷蔵庫の開け方も知らなかったんじゃないかな。引退後、独りで外出する機会はほとんどなく、コンビニやスーパーで買い物することもできなかったのでしょう」とみる。

妻が友人たちと出かけたのは韓国。夫の退職以来我慢してきた、韓流ドラマのロケ地をめぐる5泊6日の旅行だった。滞在先のホテルには毎晩国際電話がかかり、日ごとに弱々しくなる声で助けを求められたが、出発直前に「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」の新しい名称が考案されたとのニュースを見たことが災いし、夫からのSOSだとは夢にも思わなかったという。

飢えのために電話することができなくなった男性は、意識を失う前、「母さん、助けて」とのメッセージを走り書きしていた。警視庁ではこのメモを押収。男性が意識を回復するのを待って、任意で事情を聞くことにしている。

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