「自我」に目覚めたいとこ勢力

衆参国会議員の87%、有権者の86%、医師の88%、プロスポーツ選手の87%、弁護士の86%、男の87%、女の87%。そして、国民全体の87%。社会のあらゆる職業、階層、性別で、これらの数字を見る限り、いとこの存在感は圧倒的だ。と同時に、不気味と言えるほどに静かな勢力でもあった。少なくともこれまでは。

総務省が2010年に人口統計データベースを活用してまとめた報告によれば、日本の総人口1億2700万人のうち、誰かのいとこである人は1億1100万人。一人っ子が多い世代が親になり、1987年に達したピークの1億1800万人よりは減少したものの、続柄別でみれば極めて強大な勢力であることに変りはない。

しかし、いとこ勢力が政治的、経済的なアクションを起こしたことはこれまで一度もなかった。「子は扶養家族控除や教育政策、妻は男女雇用機会均等、祖父母は高齢者福祉などを通じてそれぞれ政策に意識されているが、いとこに向けた政策が実行されたことは皆無で、政治に見捨てられた存在だった」と、立命館大学の山室敦教授(政治学)は指摘する。

シンクタンク、日本文化研究所の青井美嘉主任研究員も同じような見方を示す。「母の日、子供の日、クリスマス、入学シーズン前には、家族を意識したマーケティングが展開されていたが、いとこのニーズに注目した企業はない」

背景にあるのは、いとこ意識の薄さ。夫、姉、息子といった立場を同居する家族との関係性のなかで頻繁に認識するのと対照的に、誰かのいとこであることを感じる機会は、親戚の冠婚葬祭など年に数回しかないと言われる。

しかし、いとこをめぐる環境が大きく転回しつつある。11月4日、東京の武道館に全国のいとこ1万4000人が集まった。「日本いとこの新しい会」の創立大会だ。初代代表に選ばれた遠山卓氏は壇上から満場のいとこたちに熱っぽく語りかけた。

「前近代にあっては個人の前にまず社会があった。社会の理不尽な束縛から個人が解き放たれてから久しいのに、我々いとこはなおも『母の兄の子』『父の弟の子』といった関係性に縛られてきた。『誰かのいとこ』はもうやめよう。今日から我々は、自立したいとこだ」

日本い新の会は次の総選挙で全国300以上の選挙区に公認候補を送り込む方針。一部の選挙区では、現職候補のいとこを擁立することも検討しているとの観測もあり、民主、自民両党は骨肉の争いの可能性に神経を尖らせる。「現職候補の子は多くても3~4人だから引き抜きを阻止できるが、いとこはもっと多い。い新の会が誰を狙っているのか、出馬表明の直前までわからない」と、ある県の民主党県連代表は頭を抱える。

日本い新の会は月末までにマニフェストの素案を公表する見通し。いとこ向けの所得控除枠の新設のほか、養子縁組に類似した「養いとこ縁組」の制度整備などが盛り込まれる見通し。外交面では、一人っ子政策でいとこが激減している中国を敵視していることから、総選挙の結果次第では国際社会の新たな火種になる恐れもはらんでいる。

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