新日本語入力システム試用記

いま、新しいWindows95用の日本語入力システム、WXHが話題になっている。毎日、大量の日本語を入力しなければならない私は、少しでもスムーズな日本語環境を求めて、発売と同時にWXHを入手した。今回はその感想を書き込むことにする。一味違う日本語環境を探している方は、是非参考にしてもらいたい。

私が通販で買い求めたのは、CD-ROM版ではなく、FD版。CD-ROMドライブを持っていないわけではないのだが、最近、別の通販で「北島三郎全集 華麗なる軌跡」というCDのセットを買ったので、「D:」はサブちゃん専用ドライブとなっている。

ロンドンフィルの伴奏が美しい「ちょいとすし太郎」をバックに、セットアップを開始する。マニュアルによれば、「ロボットセットアップ」なる方法もあるのだが、どうやら必要なファイルのコピーが終わるたびに「ガシャーン」と金属音が響くだけらしい。昼寝している子供が起きると困るので、私は「手動セットアップ」を選んだ。

「手動セットアップ」には3種類の方法が含まれている。まず、普通の人のための「通常コース」、ディスクスペースを節約したい人や、単純な文章しか書かない人のための「赤川次郎コース」、つまらない内容を難しい語句を使って書くのが好きな人のための「革マル・中核派コース」、そして、日本語入力システムについて高度な知識を持っている人のための「エキスパートコース」である。

私は、日本語入力にはちょっとうるさいと自負しているので、「エキスパートコース」を選んだのだが、間髪を入れず、「第1問 次の語句の読みかたを入力してください。 岡宮御宇天皇」というダイアログボックスが表示された。「おかみやおうてんのう」と入力し、<OK>をクリックすると、「はずれ。正解は『おかのみやにあめのしたしろしめししすめらみこと』でした。セットアップを中止します」という冷たい宣告とともに、セットアップ用のフロッピーディスクがすぐにイジェクトされ、1メートルほども飛んだ。

私はセットアップをやり直し、今度は「通常コース」を選んだ。世界三大テナーをバックコーラスに従えた「与作」をBGMに、セットアップはトントントン拍子で進む。

20分ほどでセットアップは終了、いよいよ、WXHを使ってみることにする。

まず、「きしゃのきしゃはきしゃできしゃした」と入力し、変換キーを押す。「貴社の記者は汽車で帰社した」と正確に変換された。もっとも、最近はソフトのメーカーも知恵がついたらしく、あらかじめ「貴社の記者は汽車で帰社した」という語句を名詞として辞書に登録しているらしいから、あまり参考にはならない。ちなみに次候補は「貴社の記者は喜捨で帰社した」。経営の苦しい企業ならありえる話なので、誤変換と決めつけるわけにはいかないだろう。

今度は「しずか」を変換してみた。候補は順に、

  • 静か
  • 静香
  • ドラエモン
  • 止血剤
  • 悶々

最初の四つが、形容動詞、名前、名前、名前の旧字体であるのは言うまでもない。次のドラエモンは、しずかちゃんが入浴中、決まってドラエモンとのび太が出現するという連想による変換だ。これが、WXHの最大の特徴、連想変換である。「止血剤」は、のび太の鼻血が止まらないため、ドラエモンがポケットから止血剤を取り出したことを連想したものと思われる。「悶々」は、性に目覚めてしまったあとののび太の苦しみを示しているのだろう。将来、しずかちゃんが自分のものになることがわかっているだけに、のび太の悩みも人一倍であったことだろう、などと、私までもがいろいろなことを連想させられてしまった。

この連想変換の開発にあたっては、NHK「連想ゲーム」の名解答者として有名だった檀ふみさんが惜しみなく協力したという。ただし、「飲食」を「のんだりたべたり」と入力するのは、違反ヒントとみなされるので注意が必要だ。「海苔佃煮」を「ももや」と入力することもできないが、これはNHKの宿命なのでしかたあるまい。高速入力が得意な人のために、正しく変換するたびに白または赤のダルマが表示されるモードも用意されている。

サブちゃんが流暢なスペイン語で歌い上げる「はるばる来たぜメキシコ」に合わせて、私はもう一つのWXHの武器、ジェスチャー単漢字入力を使ってみることにした。WXシリーズは伝統的に単漢字入力が得意だが、それでも、多数の難しい漢字を入力しなければならないような場合にはイライラさせられることもあった。新たに開発されたジェスチャー単漢字入力では、ユーザーの身振り手振りを分析して、単漢字を選択することが可能だ。ただし、パソコンにビデオカメラ、キャプチャボードが備え付けられていることが条件になる。

試しに、「鮃(ひらめ)」という漢字を入力してみることにしよう。私が床の上に寝そべって、ひらめが泳ぐ真似をすると、以下の候補が表示された。

「鰈(かれい)」が近いが、肝心の「鮃」が出てこないのはどういうわけだろうか。その後、約30分間にわたり、汗だくになって波形運動を続けたが、WXHにはどうしてもわからないらしい。あきらめて<ヘルプ>ボタンをクリックすると、「眼が左側に集まる様子を表現すると、カレイとの違いが分かりやすくなるでしょう」とのアドバイスが表示された。なかなかユーザー・フレンドリーな設計ではあるが、私は遊ばれていたのだろうかとの疑問が胸をよぎったことも否定できない。

と、こんな風に、WXHは遊び心を持つ日本語入力システムなのである。多忙な仕事の最中、気分転換の機会を与えてくれるソフトウェアではあるが、現在、巷に溢れている日本語入力システムの誤変換だけでも十分に笑えるという人にとり、新たに購入する必要性はないと思われる。

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