証言

 3年前の夏のある日、テレビ制作会社に務めるアシスタントディレクターの携帯電話が鳴り、聞き覚えの無い声が聞こえてきた。

「中居の後ろに赤い制服を着た女が座っているだろ。あの席のチケットが欲しい。手配しろや」

 ADは一瞬、意味が理解できなかった。

「え、ええと、あれは制作側が手配しているエキストラでして、観客席ではないんです。チケットは配布していません」

「どうしても、だめなんか」

「残念ですが」

「じゃあ、男6人ほど、エキストラとしてやとってくれんか」

「いえ、20代の女性と決まっていまして」

 大きな舌打ちの音とともに、電話は切れた。

* * *

 2008年の東京ガールズコレクション(TGC)。会場の代々木体育館前の会場入口前で、トラブルが発生した。

「黙って入場させたらいいんじゃ」

「このままお引き取りください」

「どかんかい、あほんだら」

「いえ、入場させるわけにはいきません」

「テレビ画面に映るよう、ステージそばに立って何が悪いんじゃこら」

 TGCが観客として想定している層とはかけ離れた中年のいかつい男数人が、警備員との押し問答を続けていた。主催者からの通報を受けた機動隊がバスで現場に到着すると、男たちはつばを吐き捨てながら雑踏の中に姿を消した。

* * *

 獄中の組長に、テレビを通じて自分たちの元気な姿を見せるための大相撲観戦。日本相撲協会が直面する新たな不祥事だが、警察庁組織犯罪対策本部の岸野譲市本部長によれば、暴力団がテレビ中継されるイベントに入り込むのはこれが初めてではない。幸い、ほとんどのケースでは失敗に終わっているが、大相撲のように暴力団にテレビ画面に登場するチャンスをまんまと与えてしまうケースもある。

 「相撲協会が再発防止策をとれば、土俵周辺での観戦は不可能になるはず。暴力団はほかの方法でテレビに登場するだろう。今後、手口がさらに巧妙化して、察知が難しくならなければいいのだが……」(岸野氏)

* * *

 「続いて、ここ釧路港からの中継です。見てください。今年もかわいいゴマフアザラシがやってきました」

 全国ニュースの画面が、岸壁に寝そべる6匹のゴマフアザラシに切り替わった。

 「みなさん、わかりますか? 今回やってきたゴマフアザラシは、いつもの年よりも体が大きいんです」

 6匹はまばたきしたり、あくびをしたり、鼻の穴を閉じたり開いたりした。あらかじめ練習を積んだ通りに。

 興奮気味のレポーターが、見物にやってきた近所の人にマイクを向けた。

 「近くで見ると、大きいんですね」

 「思ったよりも、いかついです」

 「うーん、去年までのゴマアザラシと、ちょっと雰囲気が違うなぁ」

 レポーターが「ゴマフアザラシたちは今年も元気いっぱい。まちの人気者になりそうです」と中継を締めくくるのを背後から見つめながら、ゴマフアザラシの着ぐるみに身を包んだ6人は、今ごろテレビを食い入るように見ているはずの組長が、ゴマのひとつひとつが菱形であることに気がつけば、その瞬間にすべてを理解してくれるはずと信じていた。

カテゴリー: 社会 パーマリンク