世界の屋根に響く歌声

人はなぜ、山に登るのか。それは、そこに山があるからだ。

では、石井次郎さんはなぜ、パンツを脱いで山に登るのか。

「それは、パンツを持ってこなかったからだ」

純白の雪を戴くエベレストをベースキャンプから見つめながら、石井さんはそう答えた。

酸素ボンベ、通信機器など、科学技術に依存した登山活動に疑問を感じて、無酸素で八千メートル級の山々を目指す登山家は多いが、パンツをはかずに世界七大陸の最高峰のうち六峰を次々の制覇した石井さんの業績は、登山の歴史のなかでひときわ目映く光輝いている。その石井さんがいよいよ、パンツなしで世界最高峰・エベレストの登はんに挑む。

パンツなし登山の難しさは、

「それは、スースーすることだね」

という石井さんの一言に集約されているといってよい。

風邪をひきやすい。マタズレが起きやすくなる。ズボンを頻繁に洗濯しなければならない……。欧米の著名な登山家がこれまでパンツなし登山だけを敬遠しつづけてきたのも、これらの問題を克服するのが極めて困難なためだ。

エベレスト山頂でパンツを着用していないことを証明する写真を撮ったあと、石井さんは「あずさ2号」を歌いながら下山することにしている。石井さんはパンツなし登山のスペシャリストであると同時に、世界七大陸の最高峰のうち六峰から、「あずさ2号」を口ずさみながら下山した男としても知られている。

しかしなぜ、「あずさ2号」なのか。石井さんはこう答えた。

「それは、『あずさ2号』しか知らないからだ」

天候さえ許せば、六月二〇日ころにはヒマラヤの山々が石井さんとシェルパの美しいハーモニーに満たされることになるだろう。

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