この夏の暑さ対策、体の真ん中から

 東京・巣鴨のとげぬき地蔵に近い衣料販売店。「おばあちゃんの原宿」と呼ばれるこの地域は、今日もお年寄りで賑わう。レジの前に長い行列を作るお年寄りたちのお目当ては、少し前まで「赤いパンツ」だった。いま、彼らが例外なく買い物カゴに入れているのは「青いパンツ」だ。

 店主が説明する。

 「健康のために股間を冷やしちゃいけないというのがこれまでの常識だったが、電力が不足してエアコンが使えないとすれば、そんな常識は通用しない。寒色のパンツで、せめて股間だけでも納涼感を味わってもらい、お年寄りに元気を出してもらえれば」

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 大量の電力を費やしてエアコンを動かし、屋内の気温を下げる。これまで当たり前のように続けられてきた日本人の夏の過ごし方が、曲がり角を迎えている。この夏、東北から関西までの広い範囲で電力が不足することが確実になったことを受け、産業界や大学などで、エアコンに依存せずに夏を過ごす方法の模索が始まった。

 「部屋全体ではなく、体だけを狙って冷やすべき。とくに、多くの血管が流れる股間を冷やすほうが効率が良い。男性の場合、股間が長期間高温にさらされると生殖能力が下がるため、少子化の加速を防ぐためにも新たな冷却方法の確立が急務だ」(大阪大学医学部、田口亮教授)

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 「メンソールを配合したクリーム、ゲル、ウェットティッシュなどを大量に股間に使用すれば、体感温度を下げることができます」

 日本ハッカ工業会が24日の緊急理事会のあとマスコミを通じて発表した声明だ。事務局の担当者によれば、たとえば、メンソレータムを股間全体に厚さ5ミリで塗布したとき、体感温度を下げる効果は5度。開発時に想定した用途ではないため肌荒れやかぶれは自己責任、とのただし書きがつくが、有効な暑さ対策であることは確かだ。

 欠点は温度調整の難しさ。実験で厚さを1センチに増して、さらに扇風機で風を当てると被験者の体温が一時30度を下回り、トウガラシ成分配合クリームを塗布しなければならなかった。被験者は一命こそとりとめたが、いまも大学病院の皮膚科に入院中だ。

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 一方で、まったく違う方向からのアプローチが、いま静かに広がりつつある。

 「新製品を開発したり、製造するだけでエネルギーを使う。結局は、電力不足に乗じたビジネスに過ぎないのでは?」(宮本英司さん・学生)

 「私たち、こんなにがんばっているんだって大声で訴えるより、それぞれができる範囲で取り組めばいい」(水原朝夏さん・主婦)

 「見えるところでネクタイを外すクールビズよりも、むしろ体の内面に近いところで、環境にいいことをしたい」(高橋忠太さん・建設作業員)

 異口同音に地道な省エネ活動の重要性を訴える彼らの年齢、性別、職業、社会的な背景はさまざま。ただ一つ、パンツを履いていないことだけが共通している。

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