否定疑問文への答え、国際ルール準拠を提唱

全国の大学の国語学講座でつくる「新国語文法検討会議」(会長=後藤孝規上智大教授)は21日、否定疑問文への答え方を、国際ルールに準拠させるよう求める決議を採択した。「黒船以来の日本の懸案」が解決に向けて動きだすかどうかが注目される。

英語をはじめとする世界の主要な言語では、否定疑問文への答えは、肯定の場合には「はい」、否定の場合は「いいえ」を意味する言葉を伴うのが普通。これに対して日本語では、否定疑問文への答えが肯定の場合には「いいえ」、否定の場合には「はい」が用いられる。通常の疑問文とは逆になるのが特徴だ。

《例》(英語の場合)
Don’t you know him?
──No, I don’t.
──Yes, I do.(日本語の場合)
彼を知らないのですか?
──はい、知りません。
──いいえ、知っています。

「幼い頃から慣れ親しんだ否定疑問文への答え方は、英語を流暢に話せるようになってもなかなか変わらないもの。外交やビジネスの最前線でも、日本語独特の答え方が思わぬトラブルを引き起こしており、国際化のためには否定疑問文への答え方を抜本的に見直す必要がある」と、後藤会長は指摘する。

たとえば1854年、日米間で結ばれた日米和親条約。アメリカ側全権代表の東インド艦隊司令長官、マシュー・ペリーは、江戸幕府に対して「一方的な最恵国待遇を我が国に提供しないのか」と強い調子で迫ったといわれる。江戸幕府は拒否する意向であったにもかかわらず、通訳が「YES」と答えてしまったことが原因で、日本はその後数十年にわたり、アメリカだけでなく、欧州列強との間でも不平等条約に苦しめられることになる。

その後も否定疑問文への答え方が、日本の運命を翻弄しつづけた。「日本はアメリカとの戦争も厭わないのか?」──1941年、当時のアメリカ国務長官、コーデル・ハル国務長官から突きつけられた否定疑問文に、日本の駐米大使が正しく答えていれば、真珠湾攻撃も太平洋戦争も起きなかったとの見解が、歴史学者の間では一般的だ。

数多くの外交交渉に関わったある元外務省審議官は匿名を条件に、「円高、次期主力戦闘機の選定、北方領土の返還、レア・アースの確保……。日本が直面する国際的な課題の多くは、否定疑問文への間違った答え方のためにこじれている」と、内情を明かす。

新国語文法検討会議では否定疑問文問題を話しあう分科会を5年前に設置し、解決策を話し合ってきた。昨年秋にまとめられたプランでは、「はい」から「いいえ」、「いいえ」から「はい」への即時移行では混乱が避けられないと指摘。「5年間程度の移行期間を設け、否定疑問文には二重三重、または四重の否定文で答えることで質問者を混乱させて時間をかせぎ、日本国内で徐々に国際ルールに沿った答え方を浸透させるべき」としている。

《例》
(質問)「彼を知らないのですか?」

(二重否定の答え)「知らないこともありません」
(三重否定の答え)「知らなくないこともありません」
(四重否定の答え)「知らなくないこともないこともありません」

新国語文法検討会議の決議に対し、一部の国語学者からは「否定疑問文への答え方も、日本固有の言語文化。安易に国際社会に迎合すべきではない。むしろ八重、九重のレベルまで否定文を多重化することで、結論を先送りする日本人の国民性を国際社会に積極的にアピールしていくべきではないか」といった異論も出ている。

カテゴリー: 言語 パーマリンク