体育会OBの店

現代人は疲れている。長時間の通勤。激務により積み重なる精神的なストレス。胃を痛めつける大量のタバコ、酒。連日連夜の残業。そして、豚の飼料と見間違うような愛妻料理……。

現代人が必要としているのは、充分な活力源だ。今日はそんな現代人にうってつけの力うどん専門店、「日の丸筋肉屋」をご紹介しよう。

オフィスビルが立ち並ぶ丸の内の街並みに不似合いな、こじんまりとした体育館。それが「日の丸筋肉屋」である。平日の昼休み、観客席には日本経済の中枢で働く多くの企業戦士たちがエネルギーを補給すべく詰め掛け、自分の注文した力うどんが作られていく様子を見下ろしている。

体育館中央部には土俵があり、まわしをつけた大男が先程からシコを踏んでいる。頭の高さにまで爪先を上げ、観客席にまで衝撃が伝わるほどの勢いで踏み下ろす。しかし、この大男が踏みつけたのは土俵ではない。力うどんに使われる餅である。大男は日の丸体育大学の相撲部OB(元学生横綱)。渾身の力で突かれた餅には、機械突きの餅には望むべくもないほどのエネルギーが蓄えられている。

土俵の向正面側に敷き詰めてある畳の上では、日の丸体育大学の柔道部OB(元正力杯優勝者)が麺の生地と格闘している。最初は大人の背丈ほどもあった巨大な生地が、大外刈り、巴投げ、一本背負いなどの技をかけられるうちにどんどん細く、長くなっていく。素人目にはそろそろかなと思えるころ、近くで見ていたコーチらしき人から「まだまだ」との掛け声。こうでなければ、コシの強い麺に鍛えあげることはできない。思わず、心のなかで「頑張れ」と生地を応援してしまう。

30分後、麺が巨大な鍋に入れられた。ところが、鍋の中の熱湯と麺をかき混ぜるべき人が見当たらない。これでは麺がからまってしまう、という心配は杞憂だった。突然、沸き立つ湯から美しく長い足が突き出した。鍋の中では日の丸体育大学シンクロナイズドスイミング部OG(元水中バレエプリマドンナ)が、優雅に両手を動かして水流を起こし、麺がからまないように気を配っていたのだった。

ゆで上がった麺とシコ突きの終わった餅はつゆの入ったどんぶりによそわれて、最終段階へと進む。体育館の一角に、周囲より一段高い区画がある。光り輝く金の仏像と梵鐘。まるでお寺のようだ。石畳が敷かれた境内らしき場所では、袈裟を来た少林寺拳法部OBの僧侶が十数人、車座になって小声で読経している。

どんぶりが車座の中央に置かれた瞬間、男たちの声が大きくなった。

「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏……」

ブッダの聖なる力が空間に存在する「気」を呼び集めたのだろうか。四方八方からまばゆい光がどんぶりの中へと注ぎ込む。

「喝!」

叫びとともに、どんぶりが宙に浮きあがった。「気」のエネルギーで持ち上げられたどんぶりは、そのまま観客席まで運ばれてきた。両手を伸ばしてどんぶりを受けとろうとしたら、こめかみに青筋を浮かべた僧侶の一人に、この世のものとは思えない恐ろしい形相でこう注意された。

「お…き…ゃ…く…さ…ん、 あ…つ…い…で…す…よ」

さて、日の丸体育大学のOBとOGが総力を結集して完成させた力うどんには、1杯につき1キログラムのウラン235と同様のエネルギーが含まれているのだが、食べてみると意外なほどのあっさり味だった。関東の味になじめなくて悩んでいる関西出身の方でも、抵抗なく食べることができるだろう。ただし、体内の原子が激しく励起されていることは、全身の毛穴からX線が吹き出してくることからもよくわかる。

力うどん専門店、「日の丸筋肉屋」。ガクラン姿の日の丸体育大学応援団OBが雨の日も風の日も掲げている巨大な大学旗が目印だ。

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