マルチフレックス・トレーニングマシン RGX3000

キャペーン中特別ご奉仕価格:\19,800(消費税・送料別)
 元禄三年の夏のある日、大工の熊吉は根岸にある息子の家に、もうすぐ二歳になる初孫の顔を見に行った。夕方近くになり空に灰色の雲が立ちこめたため、娘に「おとっつぁん、早く帰らないと降られちまうよ」と急かされ、仕方なく庚申塚近くにある住処に帰ることにしたのだった。

若い娘の叫びが聞こえてきたのは、巣鴨のとげぬき地蔵の前を通りかかったときだ。

「どなたか、お助けくださいまし。助けてぇ」

一目で浪人とわかるいでたちの男が三人、娘を取り囲んでいる。

「そう騒ぐな。酒を飲ませてやると言っただけではないか」

「怒ったところがまた可愛いぞ」

「今日はたっぷりと大人の男の味を教えてやろう」

三人とも、したたかに酔っている。大勢の参拝客や通行人が心配そうに見ているが、浪人たちは刀を差しているから、どうすることもできない。

娘は境内の中を逃げ回っていたが、浪人たちは三方から囲むようにして近づき、やがて娘を捕まえてしまった。三人の親分格らしき男が、娘のうなじに酒臭い口を近づけた。

その時、どこからともなく飛んできた小石がこの浪人の後頭部を直撃した。

「痛ぇ、誰だ」

白目を剥いて後ろを振り返った浪人の後ろには、小柄な熊吉だけがぽつんとたたずんでいる。

「じじい、お前か」

熊吉は何も言わず、ただ皺だらけの顔にかすかな笑みを浮かべている。

「じじぃ、お前に聞いているんだ」

熊吉はなおも答えない。小石をぶつけられた浪人の目には、かすかな笑みが軽蔑に映った。

「生意気なやつ。この場で切り捨ててくれるわ」

浪人が刀を抜いた。刀にきらめいた夕陽の冷たさに、周囲の野次馬たちが息を飲んだ。

「でぃやぁぁぁぁ」

浪人は叫びながら熊吉に近づき、刀を振り下ろした。切っ先が眉間を捕らえようかというその瞬間、目にも止まらぬ素早さで浪人の傍らに身を寄せた熊吉は、右の拳で浪人の脇腹を強打した。

屈強そうな浪人が老人の一撃だけでがっくりと倒れてしまったのには、それなりの理由がある。熊吉は前の年の春、瓦版に広告が載っていたRGX3000を通信販売で買い、誰にも気付かれることなくトレーニングを続けていたのだ。

それを知る由もないもう一人の浪人が切り込んで来た。熊吉は毎朝五十貫×四十回のベンチプレスで極限まで鍛えた胸板の力で、自分よりも一尺は大きいこの浪人をそのまま自分の頭の上に持ち上げたかと思うと、一丈半も向こうにあった石燈篭に向かって放り投げた。空を飛んだ浪人は頭から石燈篭に当たり、石畳の上に落ちて気絶した。

残る一人の浪人は、どうやら熊吉が並みの老人ではないと気がついたらしい。刀を上段に構えて、間合いを慎重に計っている。熊吉のほうは、構えているわけでもなく、浪人を挑発しているわけでもなく、見るからに自然体だ。そのうち、浪人には小さな熊吉の体が途方もなく大きく見えてきた。すきがない。

突然、熊吉が皺だらけの笑みを浮かべた。すきを見つけた、と浪人は信じた。

「たぁーっ」

浪人が降り下ろした刀は、宙を切った。熊吉は毎日七十貫×百回のレッグエクステンションで直径一尺半にまで鍛えた大腿の力で空高く跳ね上がり、そのまま一回転して爪先で浪人の頬を蹴った。柔らかい音がした。浪人の頬の骨が粉々になったらしい。

その時、熊吉の背後で勝ち誇ったような浪人の声が響いた。

「じじい、よくもやってくれたな。しかしそれまでだ。これ以上歯向かったら、娘の命はないぜ」

気絶していたはずの最初の浪人が、いつのまにか立ち上がり、脇差を娘の首に当てている。

熊吉は微塵も慌てずに、足元の小石を一つ拾った。右手の中指と親指の間に小石をはさみ、中指の力でこれを弾いた。

熊吉はRGX3000付属のキャンペーン期間中特別プレゼント、RGXジュニアで、暇をみては中指を鍛練していた。その中指の力で勢いよく弾かれた小石は、浪人の手首の腱を正確に捕らえ、貫通した。脇差が地面に落ちた。

これでは到底かなわないと観念した浪人たちが、野次馬の罵声のなかを這うようにして逃げて行く。

「ありがとうございます。ありがとうございます」

娘が土下座して礼を言った。熊吉は何も言わず、娘を立たせた。その優しい笑顔に、三人の狼藉者に深手を負わせた男の殺気や怒気はまったく感じられない。

「このお礼は、いつかきっと」

何も言わずにその場を去ろうとした熊吉に、娘がすがった。

「あの、もし。あなた様のお名前は。せめて、ご連絡の方法だけでも」

熊吉は振り返り、小さな声でこう告げた。

「注文専用ふりいだいやるは零一二零、一二の三五一四……」

その時、ぽつり、ぽつりと、雨が降り出した。

中仙道の人ごみと傘の華の中に消えて行く熊吉の逆三角形の背中を、娘はいつまでも見つめていた。

-完-

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