スライド式定規、世界各国で発見される

 世界各地のメーカーや研究機関の備品室などに、類似した形状のスライド式定規が保管されていることが明らかになった。1970年代ごろまで使用されていたとみられるが、用途や使い方は謎のままで、さまざまな憶測を呼んでいる。

 スライド式定規は2本の定規がスライドする構造になっており、別にやはりスライドするカーソルがついている。特徴的なのは、定規に刻まれている目盛りの一部が等間隔でないということだ。

 東京都大田区内の機械部品メーカー、横尾産業の設計室でスライド式定規が発見されたのは昨年11月。3代目社長の横尾和也さんが業績低迷と後継者不在を理由に廃業を決め、会社の備品を整理しているとき、ロッカー奥のダンボール箱のなかから見慣れない道具が出てきた。同じ箱に入っていた書類の日付から判断して、1972年前後にしまわれたものらしい。

 横尾さんが父親から経営を継いだのは1975年のことで、このスライド式定規は覚えていない。自宅に持ち帰り、今年85歳の父親に聞いてみると、父親は慣れた手つきで定規やカーソルをすべらせ始めた。感触に記憶はあったが、名前と使い方は思い出せなかった。父親がスライド式定規を持って訪ねたかつての部下や同業者も、異口同音に答えた。「ここまで出かかっているのに……」

 横尾さんがホームページで情報を募集したところ、全国から発見の知らせが寄せられた。同じようなスライド式定規が、物置や箱のなかで長年眠っていた。知人に依頼してホームページを英訳してもらうと、世界45カ国からメールが届き、この道具が広く世界に分布していることがわかった。

 「スライド式定規」とは、横尾さんが考案した仮の名前。「きっと正式の名前があるはず。まずはそれを突き止めたいですね」(横尾さん)。

 使い方も、まだはっきりとはわかっていない。自らもスライド式定規を大学の備品室で発見し、横尾さんとともに謎の解明に取り組む東京工業大学教授の瀬川育男さんが注目するのは、電卓登場以前の計算技術だ。

 「世界で初めて電卓が開発されたのは1964年。しかし大型航空機の開発、原子力発電所の建設など、大量の計算が必要なプロジェクトはそれ以前にいくつもあった。技術者にかかるストレスは並大抵のものではなかったはず」

 スライド式定規は、計算の現場で活躍していたのではないか。そう信じる瀬川さんは、目を細めながら実演してくれた。

 「こうやって伸ばしてからカドでトントンと肩を叩くと、とっても気持ちいいんですよ。リフレッシュしてから筆算に取り組んで効率を高めていたのではないでしょうか」

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