普通の愛じゃ満足できない

 「子どもは『お国』のためにあるんじゃない!」 

 5月のある日曜日、東京の代々木公園で教育基本法の改正に反対する集会が、開かれた。参加者は全国の教員、労組関係者、市民活動家など約5500人。彼らが危機感を募らせるのは、教育基本法を改正して愛国心を教育の現場に持ち込もうとする動きが加速しているからだ。

 同じころ日本青年館には約4000人が集まり、教育基本法改正の必要性を強くアピールしていた。

「相次ぐ青少年犯罪も児童の学力低下も、原因はすべて愛国心の欠如だ!」

 改正反対派、賛成派いずれの動きも、新聞やニュースによって報じられ、社会の注目を集めている。しかし、同じ日の午後、豊島区内にある小さな公園に400人ほどのグループが集まっていたことを知る人はほとんどいない。スーツ姿、Tシャツにジーンズ、和服、男性なのにウェディングドレス……。その服装からからわかる通りメンバーの顔ぶれはさまざまだが、主張は一貫している。

 「愛するだけじゃ満足できない!」

 ひときわ大きな声で叫ぶのは、集会を主催した日本異常執着者連絡会議(日フェ連)の代表、鞆田信也さんだ。

 「君が代を歌うとか、日の丸を掲げるとか、そんな普通の方法じゃ私たちの日本への愛はぜんぜん表現できないんです」

 愛国心をめぐる議論の焦点の一つが、国への愛のかたちだ。日本を愛するとは、天皇を尊敬するということなのか。戦前に日本がとった行動の肯定なのか。それとも「戦後民主主義の成果」の尊重なのか。愛国心は郷土愛の延長線上に位置するものなのか……。

 熱い論議が繰り広げる政治家、学者、活動家に、日本に異常執着する人々は完全に無視されている。それだけに、鞆田さんの声には力がこもる。

 「普通に愛するだけじゃだめなんです。狂おしいほどに愛さないと、21世紀の日本が抱える問題は解決しません」

 日フェ連は昨年秋まとめたパンフレット「フェチ国心のすすめ」のなかで、漠然と日本を大切にするのではなく、地方や分野を限定したうえで深く掘り下げて国を愛するよう提唱している。

 日フェ連の創立メンバーの一人、萩誠一郎さんは日本一細長い半島として知られる佐田岬半島の先端から数十メートルの家に暮らす。

 「北海道の知床半島、石川県の能登半島、鹿児島の大隅半島。各地を転々としました。地方によって風情はさまざまで、それぞれ魅力があるのですが、やはりこの佐田岬半島がいちばん愛おしいですね」

 なぜ佐田岬半島がいいのか、と訪ねた途端、萩さんの頬がみるみるうちに紅潮した。

「この細ながぁいところが、好きっ。好きったら好きっ」

 半島の先端、佐田岬では現在、萩さんが25年をかけて集めた2万8000点のコレクションを展示する「ハイヒール博物館」の建設が進む。

「完成すれば、佐田岬半島は一段と美しくなるはず。この地に上陸しようとする敵対勢力は容赦しません」

 鞆田さんによれば、日フェ連の会員は現在でこそ少数だが、自らの異常執着傾向に気づいていない人も含めれば、日本の特定の地方を命をかけて守ろうとする人の数は120万人に達する。現在の自衛隊の約5倍の規模だ。とくに奥飛騨には異常執着者が集中しており、予選会が行われるほどの人気ぶりだという。

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