ホームレス化懸念が商機に

 東京豊島区内の眼科で、24歳のOLがレーザー光線を用いた視力回復手術の順番を待っている。学生時代からコンタクトレンズを使用しているが、不自由を感じたことはほとんどなかった。

 「それでも、いざというときに安心できるのはやっぱり裸眼。コンタクトは定期的な交換や洗浄のための費用が高くつくから……」

 長年、手術を受けるかどうか迷っていたこのOLが決断を下したのは、勤務する有名メーカーの業績が急速に悪化していることを、テレビのニュースで知った直後だった。

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 失業率が5%台という高水準に「安定」し、日本経済は低迷脱出の手がかりがみつからない状態が続いている。ホームレスは高度経済成長期の「自発的に社会の一般的な価値観を捨てた人々」から、「普通の生活をしていたのに、運悪く不況のせいですべてを失った人」へと変化した。

 経済産業省によれば、将来、自分がホームレスになるかもしれないと考えている人の比率は今年8月の調査で、過去最高の23%を記録した。自分のかつての同僚が駅でごみ箱をあさっているのを目撃した人に限ってみれば、43%に数字が跳ね上がる。もはやホームレスは、多くの日本人にとり他人事ではない。

 その一方で、国民が抱えるホームレス化への不安が新たなニーズを生み出している。

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 名古屋市内で美容整形外科を経営する医師は、この2~3年、整形手術を希望する患者たちに、「清貧化」の傾向を感じ取っている。目はそれほど大きくなくてもいいから、清楚な顔立ちにしてほしいと言う若い女性が増えた。「ゴージャス」に走り勝ちだった過去の整形手術の現場では考えられなかった現象だ。

 この秋に手術を受けた家事手伝いの女性は、整形の効果に喜んでいる。周囲には「きれいになったが、薄幸そうにも見える」と言われることが多い。この女性の父親は昨年9月に失業、家のローンの元利返済は昨年末からストップしたままだ。ホームレス化は避けられないと判断し、「清く・貧しく・美しく」という目標を立てたこの女性は、まず最後の一つを実現したことになる。

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「ミサワホームの段ボール製住宅、人気集める」
「中学生撃退のための武道教室に申し込み殺到」
「食べていいもの悪いもの――ごみ箱食物の安全教本がベストセラーに……」

 ホームレス化が新しいビジネスチャンスを広げていることを示すニュースはほかにもいくらでもある。大和総合研究所では、2003年の経済成長率(GDPベース、実質)がホームレス効果で0.2ポイント高まるとの計算結果を明らかにしている。一方、そんな時代の流れに不安を抱く人もいる。

 「公園で寝泊りしている人が美人で、リアカー車庫つきのこぎれいな段ボールハウスで暮らし、悪質な中学生や高校生の集団を退治して喝采を浴びるようになったら、我々のような昔気質のホームレスはどこに行けばいいのだろう」

 34年前、世間を捨てる決心を下してから野外生活を続けてきたこのベテラン・ホームレスは、上野公園がこの数年でずいぶんと住みにくくなったと嘆き、そろそろ社会復帰の潮時かと考え始めているという。

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