雪山に約2ヶ月、無事を確認

 乗鞍岳の登山道の途中にある標高2000メートル付近の山小屋で、11月初旬から身動きが取れなくなっていた登山家の無事が確認された。安否を気遣っていた家族や友人たちは朗報に胸をなでおろしている。

 山小屋に閉じ込められていたのは静岡市内の団体職員、川本一仁さん(38)。長野県側から乗鞍岳に登り、岐阜県側に下山する計画を立てて11月2日に出発したが、下山予定日を過ぎても川本さんから連絡がないことから、家族が長野県警に捜索願を出していた。

 ほかの登山者からの証言から、県警は川本さんが山小屋にいると判断。しかし連日の猛吹雪やなだれのため、捜索隊が山小屋に近づけない状態が続いた。緊急発電装置と十分な燃料、食料はあるものの、トイレの凍結防止用の電熱式便座を除く電気ヒーターがすべて故障しており、一時は凍死が心配される状況だった。

 天候の回復を待って出発した捜索隊が山小屋に到着したのは30日の午後。川本さんの姿は見えなかったが、トイレの扉にかぎがかかっており、ノックすると中からもノックで反応があった。捜索隊員らが下山を呼びかけたものの、川本さんは無言のままだという。

 北国の人々の心理に詳しい信州大学教授の諸田八重子氏によれば、川本さんは加熱便座依存症に陥った可能性が大きい。体が冷え切った状態でトイレに入った人が、便座からでん部に伝わる熱で精神的に満ち足りてしまい、そのままトイレに閉じこもってしまう病気だ。山小屋には食料のほか、過去の利用者が置いていった膨大な古新聞や古雑誌が残されていたことから、川本さんは過去2カ月間、外部と完全に隔離された至福の空間の中にいたとの見方が強まっている。

 捜索隊は、いったんは救出を諦め、カウンセラーを伴って1週間後に再び山小屋で川本さんとの接触を試みる方針。しかし、この山小屋には温水式のウォシュレットが設置されていることから、川本さんの症状は通常のケースよりも深刻である可能性が大きく、トイレのカギが開けられるは5月の雪解け以降にずれ込みそうだ。

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