陸生化を車輪で促進

 千葉県内のとある工業団地。大型トラックが行き交う道路で、今年の春ごろから猛スピードで疾走する灰色の塊が目撃されるようになった。ある運転手はサイドミラーをのぞいたとき、夢でも見ているのかと思ったという。トラックを猛スピードで追い抜き、瞬く間に見えなくなったのは、イルカの群れだった。

 「イルカを守る千葉県民のネットワーク」代表、松木真美さんは語る。

 「彼らの先祖は陸地を捨てて海に新天地を求めました。その子孫が海を捨てて陸に帰ろうとしたとき、無理矢理海に戻すのはあまりに無責任です」

 今年の2月、九十九里浜に6匹のイルカが打ち上げているのが発見された。松木さんは地元の漁師たちが弱ったイルカを海に押し戻すことを阻止、仲間とともに自転車を改造して専用の四輪車を6台作り、1台に1匹ずつイルカを乗せた。おびれでペダルを動かし、胸びれで方向を変えて、自力で移動できるしくみにした。最初はとまどっていたイルカたちも、ほうびに小魚を与えるとすぐに運転を覚えた。

 それ以来、松木さんらの助けを得て千葉県に上陸したイルカは145匹を数える。猛スピードで疾走したり、派手な宙返りやジャンプをするイルカの群れが県内各地で目撃されるようになった。東京水産大学の研究グループが超音波マイクでイルカの声を録音して周波数を下げたところ、「パラパラパ パラパラパ パラパラパ」と叫んでいたことが判明。関東暴走聯合型と呼ばれる発声パターンから、すでに陸上生活に高度に順応していることが確かめられた。

 しかし、スピードを出し過ぎてカーブを曲がりきれず、歩道、中央分離帯、ガードレールに乗り上げて走行不能になるイルカも後を絶たない。松木さんは「頭がいいとは言われるが、所詮はこれが限界。静かに見守ってあげるしかないでしょう」と半ばあきらめ顔だ。

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