恐竜の心の悩み探る――大恐竜博

「食べて、食べて、また食べる。1日に食べる葉の量は1日に2~3トン。人間ならすぐ入院を命じられる危険な状態だった」

 恐竜博が開催中の幕張メッセで、ブラキオサウルスの巨大な骨の化石をバックに解説するのは精神科医の久佐野香さん。心理学や精神医学の角度から恐竜の秘密に迫る研究者グループの一員だ。

 これまでの恐竜研究では、土の中から掘り起こされた骨の化石を手がかりに、恐竜の物理的な生態を想像することがすべてだった。恐竜学者によれば、ブラキオサウルスが巨大な草食動物になったのは「そうすることで淘汰を免れたから」。恐竜の心の悩みが省みられることは全くなかった。

「食べている間は不安を忘れられる。それが、ブラキオサウルスがひたすら食べ続けて巨大化した理由なのではないか」と、数多くの巨食症患者を診察した経験をもつ久佐野さんはみる。

 新しいアプローチは、ほかの恐竜の研究にも応用されている。地上最強の肉食動物といわれてきたティラノサウルスは、他の恐竜を食べるためではなく、傷つけるためだけに鋭い牙を手に入れたのではないか――最近、学界を騒然とさせた新説だ。

「ティラノサウルスの鋭い歯が、肉を食べるのに適していたとは思えない。むしろ、飛び出しナイフのように、周囲の生物を手当たり次第に傷つけるのが、この恐竜の生きる目的だったのではないか」(英シェフィールド犯罪心理学センター、ヘンリー・クローゼフォード主任研究員)

 恐怖を感じている人が、自分を防衛しようとするあまり、逆に周囲を傷つけてしまうことは人間社会でもよくあること。クローゼフォードさんは、恐竜の社会でも全く同じことが発生したと断言する。問題は、ブラキオサウルスやティラノサウルスが、いったいどんな不安にさいなまれていたかということだ。

 中国国立古代生物研究院の陳新教授によれば、答えは突然の恐竜絶滅に隠されている。地球上の生態系で王者として君臨していた恐竜は、白亜紀のある時期に突如として滅亡した。その理由は長い間謎だったが、最近では巨大隕石の地球衝突で地球規模で気候が急変し、食物が激減したとの説が広く信じられるようになっている。

「恐竜は鋭い動物の勘で、巨大隕石衝突が近いことを本能的に感じ取っていたはず。ブラキオサウルスとティラノサウルスは、滅亡から逃れられない状況で、ぞれぞれヤケ食い、マジギレ状態に陥ったのではないか」(陳さん)

 この自暴自棄説は、長年、恐竜の専門家を悩ませてきたステゴサウルスにまつわる謎の答にもなる。ステゴサウルスの背中にはなぜ、不格好な盾状の板が並んでいたのか。それは、世紀末にも似た状況のなかで、常識的とされるスタイルにあえて反抗したステゴサウルスの強烈な自己主張だったのだ。

 久佐野さんの説明を聞いたり、自暴自棄説を本で読んだりした若者のなかには、これまで大昔の「怪獣」だとばかり思っていた恐竜に、共感を覚えるようになった人が少なくない。

「今日もラーメンを5杯食べてから恐竜博を見に来た。空腹だけが理由だと思っていたけれど、ブラキオサウルスの化石を見た瞬間、満たしたかったのは胃袋じゃなく、落ち着かない気持ちだったと気づいた」(東京都江東区の高校生、大泉真子さん)

「誰かを刺しても傷つけても、言いようのないこの焦りをどうすることもできない。親も友だちも先生も、オレの気持ちをわかってくれない。ティラノサウルスも、きっと寂しかったんだと思う」(山梨県甲府市の無職、相沢大さん)

「校則に縛られるのは大きらい。モヒカンにしたとたん、周囲に注目されるようになったのでうれしい。人間なんて、いつ死ぬかわからないんだし、ステゴサウルスみたいに、自分の好きな格好で死にたい」(群馬県前橋市の中学生、夏木孝司さん)

 恐竜博の会場で、数千万年という時の流れを隔てて、青少年と恐竜の心が結ばれた。絶滅前夜の恐竜と同様、大泉さん、相沢さん、夏木さんも、口にこそ出さないが、小惑星や彗星が、いまでも地球の公転軌道をしばしば横切っていることを薄々感じているのかもしれない。

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