チャンピオンは誰だ

霧がたちこめた朝、鈴鹿サーキットに3台のマシンが集まった。

H社のVXR750EX、S社のRGS750RS、K社のGPX750R……。

国内家電メーカー大手3社が誇る最新鋭全自動洗濯機だ。7.5KG級洗濯機は、もはや一般家庭での使用は不可能と言われるほどに高性能になった。今回は「夢の激突! 洗濯機チャンピオン決定戦」と題して、そのパフォーマンスを極限まで引き出してみた。

VXR、RGS、GPXはいずれも、家電メーカーが世界耐久洗濯機選手権に出場するファクトリー・パワーウォッシャーのベースとするために、技術の粋を集めて開発した洗濯機である。エキサイティング・レッド、グリース・ブルー、クリーム・スイカ・イエローなどの派手なカラーリングが目にまぶしい。法律上は市販品であり、100V電源での使用も可能だが、使いこなすには国際A級以上の洗濯テクが絶対条件となる。価格は1台あたり2500万円以上と、ごく一部のハイクラスなコンシューマーにしか手の届かないレベルに設定されている。

まずイグニッションキーを回してみよう。VXRのイグニッションキーは通常タイプではなく、南京錠になっている。本場南京製であることは言うまでもない。高価なマシンだけに、ユーザーとしてはこのあたりの気配りがうれしい。GPXの場合、電源投入後に交流電源の周波数および電圧がデフォルト値と違う場合には、音声でその旨知らせてくれる。供給される電源の周波数から所在地を自動的に判断し、「注意して下さい」「注意したほうがええで」と方言を使い分けるというから、事実上のレース専用機とは思えないほどのユーザフレンドリー設計なのである。

次に、汚れた服を投入する。今回サンプルとして用意したのは、生後4ヵ月の赤ちゃんの布おむつ、大学のラグビー部員のジャージ、満員電車の中で口紅をつけられたYシャツである。公平を期すため、3台とも高性能ハイオク中性液体洗剤を使った。

水の注入が終わり、いよいよ洗濯が始まった。VXRはいきなり耳をつんざくような爆音をあげ、全速力でチタン合金製のメインタンクを回転させた。タコメーターの針があれよあれよという間にレッドゾーンに吸い込まれていく。加速性能では強力直流モーター3台をR字型に連結したVXRが有利なようだ。

瞬時の加速性能はVXRほどではないにせよ、GPXの中回転域からの伸びは素晴らしい。これは新開発されたDOHC(ダブル・オーバ・ヘッド・コンデンサー)の効果であろうか。あっという間に透明だった水が山吹色に変わった。しかもGPXの場合、洗濯物がまったく絡んでいないようだ。一定方向へのフローではなく、小刻みなバイブレーションによりしつこい汚れを落とすというK社開発陣のポリシーと執念が、このGPXに結実している。

湿式クラッチを使用している影響だろうか、RGSだけはスタートからやや出遅れた。回転数がなかなか上がらないし、かといって低回転域のトルクが強いわけでもなさそうだ。

そうこうしているうちにVXRは脱水を始めた。VXRは全ての荷重を一本のエアサスペンションで支える「モノサス」方式を採用しているため、不安定な挙動を示すのではないかと心配されたが、脱水開始直後に派手なウイリーを見せた以外は、全く不安を感じさせない。

数秒遅れてGPXも脱水に入る。GPXは排水のプレッシャーでメインタンクの回転数を上げる「ターボチャージャー」を活かし、恐怖感を覚えるほどのペースで脱水していく。すすぎに突入したのはGPXが最も早かった。

9000rpmで脱水を続けていたVXRは、油圧トリプルディスクブレーキにより瞬間的にメインタンクの回転を止めた。同時に、アンギュラーモメンタム保存の法則に従い、とてつもない力がVXRのモノサスにかかる。家庭用洗濯機ならコマのように回転してしまうだろうが、VXRはABS(アンチブルブルシステム)を起動して、何事もなかったようにすすぎを開始している。この技術は今のところハイエンド洗濯機にしか使われていないが、やがては家庭用洗濯機にも採用されるという。まさに、「洗う実験室」である。

この後、VXRとGPXは抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げた。みるみるうちにすすぎがおわった。フルスロットルの水注入、そして、モーター全開の再脱水だ。

「ピー」

洗濯の終了を知らせるブザーがなった。VXRとGPX、全くの互角。洗濯の開始から終了まで、わずか2分59秒、3分の壁を破るとは、我々も全く予想していなかった。本誌専属のテストライダーで元世界洗濯チャンピオンのケニー・ロバーツも、「ビィ・サプライズド・アット!」と驚きを隠しきれない様子だ。

VXRとGPXにより洗濯された衣類が鈴鹿の青空の下にはためいたころ、ようやくRGSがゴールインした。VXRとGPXの驚異的なパフォーマンスと比較すれば、「惨敗」と言っていいタイムだった。

ところが、RGSのメインタンクのフタを開けたケニーが、「オウ・マイ・ゴッド」と叫んだ。なんと、RGSで洗われたはずの衣類は、すでに乾いている。しかも、VXRとGPXには手も足も出なかったYシャツの「汚れの首輪」まで、きれいになっている。RGSはタンクに組み込まれた遠赤外線セラミックを使って、洗濯と同時に乾燥までやってのけたのだ。

「夢の激突! 洗濯機チャンピオン決定戦」、第1回はRGSの大逆転勝利に終わった。しかし、RGSを開発したS社はいつまでも安心しているわけにはいかない。噂によれば、H社は16:9のワイド洗濯機を、K社は電気釜としても使える洗濯機を開発しているという。レースはこれからも続く。パワーウォッシャーの世界に、洗濯終了お知らせブザーは存在しないのだ。

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