ピープルNOW

「よし、21日の行動はわかった。では翌22日、おまえはどこで、何をしていたんだ」

「遊びに行ったと思います」

「それだけじゃわからん。どこに、だれと行ったんだね」

「えーと、山田。いや、鈴木かな」

「二人とも、おまえの友人だな。で、どっちとだ」

「たしか、あの日は鈴木と……」

「鈴木とどこに行った?」

「さあ、昨日のことならともかく……」

「これを見ろ。おまえの部屋のゴミ箱で発見された映画の半券だ」

「思い出した。映画を見に行ったんです。朝10時に鈴木の家に行き、しばらく遊んでから、午後1時ごろに始まる映画を見ました」

「映画が終わったあと、どうした」

「…………」

「思い出せないのか」

「たぶん、まっすぐ帰って宿題の続きを」

「それは違うな。映画が終わったのは午後2時55分。午後4時20分ごろ、駅前スーパーのゲームソフトコーナーで、クラスメートの会田君がおまえと鈴木を目撃している」

「ちきしょー、会田のやつ」

「なぜそんな場所に行ったんだ。母親からもらったのは映画代だけだ。ゲームソフトを買う金などなかったはずだぞ」

「ぶらぶらしてただけだよ。悪いのか!」

「それも違うな。店員の八木さんによれば、税込み6300円を支払ってソフトを1本購入している。ここにレシートもある。さあ、白状しろ。6300円ものお金を、どこで手に入れたんだ」

「そ、それは、新聞配達のアルバイトで」

「嘘をつくな! ちゃんと調べはついているんだぞ」

「…………」

「映画館から自転車で帰る途中、お前と鈴木は路上に財布が落ちているのを見つけた。違うか」

「そ、それは」

「お前は財布を交番に届けず、鈴木と山分けにして、駅前スーパーに向かったんだ」

「…………」

「そうか、黙秘権か。まあいい。オレの話を聞け。(たばこを一服)フーッ。なあ、おまえの夏休み。あとわずかだろ」

「…………」

「小学生はいいな。刑事には、夏休みなんてないんだ。この季節になると思い出すよ。田舎の夏休みをな。真っ白い入道雲のように、汚れのなかった夏休み……」

「…………」

「おい、夏休みを汚しちゃだめだぞ。2学期が始まるまでに、財布を持ち主に返しちまえよ。使ったカネはオレが立て替えてやる」

「………うっ…」

「オヤジさんが死んだあと、女手ひとつで必死になっておまえを育てたオフクロさんを悲しませちゃいけないな」

「うわぁーーーーーっ、僕が全て悪いんです。鈴木がお巡りさんに届けなきゃって言うのを無視して、ゲームソフトとタコ焼きとコーラを。うわぁーーーーーっ」

「よしよし、もう泣くんじゃない。よく正直に言ってくれた。いいか、これからは、絶対に道を踏みはずすんじゃないぞ。いいな」

「ううううううううううぅ、ひくっ、うううううううううぅ、ひくっ」

「それからな、鈴木も全て自分が悪いと言い張っていた。いい友達だ。大切にしろよ」

「ううううううううううぅ、ひくっ、うううううううううぅ、ひくっ」

「よし、これで8月22日の行動はわかった。夏休み中のおまえの行動の全貌が明らかになったってわけだ。さあ、これが調書だ。(ドンッ)さあ、持って帰って、存分に宿題の日記を書いてみろ」

「はい。お世話になりました」

「がんばるんだぞ。えーと次は、北区立滝野川小学校3年2組の下柳健介くん、どうぞお入りくださーい」

――かすかな糸口から小学生の夏休み生活の全貌を解き明かす元警視庁警部、落合権蔵。真っ白な日記帳を前にただ呆然とする子供たちがいる限り、落合の執拗な取り調べは今日も続く。

カテゴリー: 教育 パーマリンク