まだまだある問題サイト

 その事件が発生するまで、飯田純さん(仮名)は、普通の女子高生だった。自宅での夕食後、忽然と姿を消したのは昨年2月のこと。姉には「携帯電話で知り合った男性に会いに行く」と告げていた。

 それから3か月後。飯田さんは変わり果てた姿で発見された。肩まであった髪はきちんと5センチの長さに刈り込まれ、服装は上下とも黒の学生服。足にはハイヒールではなく、下駄を履いていた。

 現在でも、飯田さんは家族や警官、医師が何を尋ねても「押忍!」としか答えない。3か月間の足取りはまったく不明だが、詰め襟の幅が5センチ以上に達していたこと、白い手袋をはめていたことなどから、事件と応援団との関わりが濃厚だ。

 現在、「気合い系」と呼ばれるサイトの数は300とも500とも言われるが、その実態は明らかでない。応援団、体育会、松下電器産業の新入社員研修など内容はさまざま。強いエネルギーにあこがれる若者たちの支持を集めていることが共通点だ。

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 大山美香さん(仮名)は、共働き家庭の一人っ子。両親が帰宅するまでは、「テレビ」が唯一の家族だった。何を話しかけても答えが返ってこない生活が当たり前だと思っていた大山さんは、11歳の夏、見ず知らずの相手から確実に反応が返ってくることに驚き、喜び、そして燃えたという。

 「最初はおそるおそる。少し相手のことがわかってくると、つっついてみたり、相手の逆を狙ってみたり。でも慣れている人だと、確実に拾ってくる。ちょっとスキを見せると、スマッシュを打ち込まれたりして……」

 大山さんは毎日のように、学校が終わるとすぐに携帯電話端末で相手を探し、区民体育館で待ち合わせて勝負を挑む。いつか自分も強くなり、日本選手権のベストエイトに進みたいと夢見ている。

 日本卓球連盟は、いわゆる「福原愛系サイト」に登録している少女の数は、数万人に達しているとみる。

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 このサイトを利用するようになってから、矢野勇さん(仮名)は、「昔のオレはしゃべり過ぎていた」と感じるようになったという。いまは、1日に何時間もサイトに接続し、ひたすら黙っている。聞こえてくるのはポリネシアの砂浜に寄せては返す波音だけだ。

 「携帯電話を通じて、いろんな人と話したり、メールをやりとりしたり、直接出会ったりした。でも、いまでも覚えている顔はほとんどない。伝えたり、伝えたりしたことが空っぽだったから、印象が薄いんじゃないかな。相手もオレの顔なんて覚えていないはず。これからは、大きくてごつごつした個性的な顔が欲しいんだ……」

 黙っているだけで退屈ではないのか──そんな問いかけに、矢野さんは何も答えてくれなかった。視線はまるで水平線のはるか向こうを見つめているかのようだ。いま、矢野さんの顔の長さは約40センチ。「モアイ系サイト」に集まるほかの若者たちと同様、少しずつ目標に近づいている。

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