いつもと違う秋

透き通るような青空の下、耳をすますと、遠くから秋祭りを知らせる大太鼓の音が聞こえてくる。刈り取りが終わった田で干されている膨大なわらが、今年が記録的な豊作だったことを物語っている。

敬虔な村人たちは、豊かな実りをもたらしてくれた神に手をあわせて感謝する。しかしその場所は鎮守の社ではなく、村の中央にあるカトリック教会。大太鼓が響かせるラテン系の情熱的なリズムも、日本の秋の農村とは異なっている。

メキシコ北部のマヒーカ村では、1992年ごろから気候がすっかり変わった。冬には雪が降り、初夏には大量の雨が降り、秋には好天の日が続く。それまでの主力作物、麦はほとんどとれなくなり、村には見渡す限りの水田が広がった。 これまでに、秋の「日本晴れ」が観測されるようになった地域は中南米、アフリカ北部を中心に世界で345カ所。そのほとんどで、日本の農家からイネの苗、肥料、コメ作りのノウハウ、そして農村文化が持ち込まれている。マヒーカ村でも今年、餅つき、田植え、盆踊り、秋祭りなどが営まれた。近くJAマヒーカも発足する予定だ。

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今年の『犯罪白書』によれば、昨年日本の家庭内で発生した暴力事件は24万5785件。このうち89%では父親や夫が加害者となっているが、注目されるのは、母親、妻、娘、祖母、おばが加害者となっている事件が前年比23%増加したことだ。

多くの男性が、女性の変化について証言する。

「素直でやさしい人だったのに、次第に気性が激しくなり、少々のことで激高するようになった」(8年交際した女性と別れた29歳の男性)

「50年前に結婚して以来、5年に一度くらいは家出することがあったが、近年は毎月のように怒って家を飛び出してしまい、家庭生活が破たんした」(離婚したばかりの75歳の男性)

「昔と比べて、仕事がしにくくなった。女性の心がまったく読みとれない。お世辞で喜ばせようとすると怒られる。こっちがサジを投げると喜ぶ。心理状態がコロコロと変わるので、対応のしようがない」(29歳のホスト)

女性心理の変化は、企業や家庭における女性の地位向上を反映している、というのが従来の社会学者や心理学者の見解だった。しかし、ここ数年の変化はあまりに急激だ。「秋の空模様の乱れ方が、女心に映し出されている」――気象学者のこんな説は、今年の秋、残暑の続く街角で、多くの女性が腹を抱えて、人目をはばかることなく大笑いしていたことを思い出せば、俄然現実味を帯びてくる。

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雑草が生い茂る畑を見つめながら、中山隆さんは唇をかんだ。「こんなことならサラリーマンを続けていればよかったのかもしれない……」

22年間勤務していた有名企業を退社したのは昨年冬。妻と高校生の息子を説得して埼玉県北部の農村に移り住み、長年の夢だった農民になった。

数年前から週末ごとにプロの農家の手伝いをし、知識と技術を蓄えた。最初の数年は無理をせずに晴耕雨読の毎日をすごそうと考え、資金も充分に蓄えた。中山さんが語るように、「一時の衝動ではなかった」。

ところが中山さんは10月下旬に過労で倒れ、2週間入院してしまう。記録的な晴天続きのために晴耕雨読の計画が崩れ、日の出から日没までの過酷な農作業が続いたのが原因だ。妻の加世子さんが屋根から水をまいて無理矢理休ませ、病院に送ったときには、意識が朦朧としていたという。

この秋、健康上の理由で農作業をあきらめた脱サラ農民は全国で400人以上に達した(東京管理職ユニオン調べ)。そのほとんどが農作業ではなく、晴耕雨読の優雅な毎日に憧れて農民になったとみられている。この秋日本全土を覆った高気圧は、彼らの淡い夢をいとも簡単に蒸発させてしまったようだ。

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上司から何度注意されても、31歳の会社員、野口栄治さんは遅刻のクセが直らなかった。妻の良美さんは町内会の行事への参加をかたくなに断り続けてきた。小学校3年生の一人娘、響子さんは引っ込み思案で、授業中にはほとんど発言したことがなかった。

栄治さんの上司や同僚、町内会の役員、響子さんの担任やクラスメートは、そんな野口家の急激な変化に驚いている。栄治さんは毎朝6時から、警備員が会社の門を開けるのを待っている。良美さんは突然町内会長の家を訪れ、来年は是非私が町内会長になりたいと切り出した。響子さんは、何も質問されていないのに元気よく手をあげて、先生を辟易させている。

「どういう風の吹き回しだろう」――野口家の3人と関わりをもつ人々が共通して抱く疑問を、気象庁お天気相談所の小山俊介首席相談員にぶつけてみた。

「例年なら秋雨前線が日本を覆うころになっても、今年は高気圧が勢力をなかなか弱めなかった。野口さん宅付近では地形の関係で1年のうち3分の2、東風が吹くが、今年は高気圧のために例年よりも南風の日がかなり多かった。周囲にマンションが建った影響も相まって、強烈な吹き回し現象が生じたのだろう」

この吹き回し現象は、野口家の命運をどう変えようとしているのか。栄治さんは「将来がどうなるかわからないのだから、考えたってしかたがない。明日は明日の風が吹く」と楽観的だ。お天気相談所に吹き回し現象の今後について質問してみたが、「今年の秋は、予測が成り立たない」とのことだった。

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