5月1日の人声天語

毎年の4月、「今年こそは」の思いを胸に、多くの人がテレビやラジオの外国語講座を聞きはじめる。そのほとんどが5月に入らないうちに挫折する。昨日の夜のニュースを見ながら、北沢靖子さんに尊敬の念を抱いた人は、日本中にどれだけいるのだろうか。

駒込駅北口の小さな書店できのう午後、北沢さんがカメラのフラッシュを浴びながら、「NHKラジオロシア語講座テキスト5月号」を購入した。34年前に番組が始まってから、5月に入っても受講を継続する人は北沢さんが初めてだ。

日本語を含め、難解な言語は世界中にたくさんあるが、難しい発音、複雑な文法、治安の悪い留学生用宿舎といった条件を兼ね備えたロシア語は、他の言語を寄せつけない。NHKの調査によれば、放送開始から挫折までの平均日数は、ラジオ基礎英語1」が42日、「ラジオ中国語講座」が14日であるのに対し、「テレビロシア語会話」は4分58秒、「ラジオロシア語講座」はマイナス3日となっている。

難解であること自体がロシア語の魅力と考える人もいる。「トルストイやツルゲーネフの作品からロシア語をとってみたら、何も残らなかった」(作家・五木寛之さん)。北沢さんも「ロシア語学習はエベレストへの挑戦のようなもの」と語る。

3歳で始めたラジオ基礎英語を皮切りに、一昨年のラジオアンニョンハシムニカハングル講座まで、制覇は27の言語に及ぶ。昨年1年間は「きょうの健康」で体力を蓄えた。

しかし、この先には絶壁がそびえている。5月号テキストには、4月号のイワンとミーシャに代わり、高利貸しの老婆とその妹を殺害して罪の意識にさいなまれる聡明な大学生、ラスコーリニコフが登場する。北沢さんは1860年代のロシアにおけるインテリゲンチャを苦悩から解き放ち、NHKの仕掛けた関門を突破できるだろうか。すべては5月8日の夜、明らかになる。

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