流通最前線 探訪アウトレット

 東京・多摩地区のある大型アウトレットモール。閉店時間をとうに過ぎた深夜2時、石鹸、タオルを入れた風呂桶を抱えて、老人たちがやってきた。目指す先は巨大なモールのなかで、唯一まだ明かりを灯している「松の湯」だ。

 利用客の一人が服を脱ぎながら、こう語った。

「普通の銭湯の入浴料は385円。3日に一度風呂に入るだけで月4000円近くになる。預金の利息が安くなったいま、これは辛い」

 そんな老人の悩みを解決すべくオープンしたのが「松の湯」だった。通常の銭湯が営業を終えると、すぐにタンクローリーにお湯が移され、このモールまで運ばれてくる。コストは通常の銭湯のわずか3分の1。輸送費を合わせてもかなり割安だ。入浴料は180円と、公定料金なら15年前の水準に抑えられている。

 安いのは入浴料だけではない。タオルは1枚18円。アウトレットの商品は季節はずれとキズものが主流だが、これらのタオルには、昨年から今年にかけて経営が破綻した金融機関の名前が染められていた。

 番台のそばには、「フランス産ブドウジュース入荷しました」との貼り紙があった。つい最近まで、ワインの専門店などで「ボージョレ・ヌーボー」として売られていた商品だ。解禁から1か月も経つと、同じ即席ものでもカレーやめん製品のようにさばくことができないため、アウトレットで1本98円で処分されることになる。

 浴場の中に入ってみた。タイルで描かれた梅の若葉が美しい。対照的なのは湯船に漬かった客たちの蒼白な顔。湯船にさざ波が立っているのは、彼らが震えているからだろうか。

 客の一人が紫色の唇で言う。「もうちょっと熱くしてくれると助かるんだが。安いからしかたがないよな」

 関東地方にこの冬初めての雪が降った夜、アウトレット銭湯には男湯、女湯あわせて300回以上のくしゃみが響きわたった。

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