’98参院選情報 規則改正で選挙が変わる

 「有権者の皆様の清き一票をお願いいたします」 「苦しい、苦しい戦いを続けております」 「どうか××を、みなさんの手で国会に送ってください」

 選挙のたびに日本全国を包むこんな叫び声が、長崎市の南西、約15キロに浮かぶ小さな島、端島でも久しぶりに響いている。

 またの名を、軍艦島。海面下約1,000メートルで良質の石炭を掘り出すために作られたこの「要塞」には、炭鉱労働者やその家族のために建設された高層アパートがいくつもそびえ立っている。周囲はコンクリートの壁で囲まれ、まさに、海上に浮かぶ軍艦のように見える。

 しかしいま、この島には誰も住んでいない。1974年の閉山で、端島は経済的な価値を完全に失った。高層アパートはそのまま廃墟になった。時折上陸するのは、大量の火薬を持ったアクション映画のロケ隊と、人間がいなくなったあとの都市の崩壊状況に興味を持つ、物好きな学者しかいない。

 その端島に、各党の公認候補が相次いで上陸している。彼らの必死の「お願い」を聞いているのは、島の周囲を飛ぶカモメと、アパートの窓に巣を張った大きなクモだけのように思える。

 この夏、端島がこんなにも騒々しくなったのは、公職選挙法が改正されたためだ。これまでは出張などに限定されていた不在者投票の理由が、すべての「不在」に拡大され、捺印も不要になった。24年前に住民がすっかり「不在」になった端島は、一夜にして巨大な票田へと変身した。

 島の南側では、ある候補が精力的にアパートの廃墟を一戸一戸訪問し、パントマイム式の握手で票を固めようとしている。ところが対立候補の陣営は、島の南側の旧住民が現在、長崎市内や関西方面に住んでおり、各自治体で有権者として登録されていることを突き止めた。不在者資格を失った人は推定で5,000人以上。端島の選挙が混迷の度を深めることは間違いない。各候補者にとっては、今後しばらく、手探りの選挙戦が続きそうだ。

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