Bearable Lightness of Being

私は最近、お世辞にも人目を引くとは言えない地味な形式で、こんな求人広告が新聞の片隅に掲載されているのを見つけた。

「朝の連続テレビドラマでヒロインの恋人/夫/父親役の経験のある、元男優求む。現男優は応募不可」

およそ2ヵ月前には、こんな奇妙な求人広告があった。

「テレビ番組『プロポーズ大作戦』の『フィーリング・カップル 5対5』で、男性軍の2番手、または4番手を務めた人、求む」

これら二つの広告が求めている人材には、共通点がある。それは、影の薄さだ。朝の連続テレビ小説はこれまでに、数々の人気女優を生み出したが、ドラマの中でヒロインの引き立て役として使われる男優が、長い年月の後、視聴者の記憶に残っていることはまずない。ドラマの放送終了時でさえ、視聴者がこれらの男優の芸名を憶えている確率は、4%程度しかないと言われている。これは、富士の樹海に迷い込んだ人が生還する確率の、ちょうど半分だ。

「フィーリング・カップル 5対5」の男性軍2番手、4番手も、印象の薄さでは負けていない。女性軍や司会者の質問に対する答えを短時間で考え出す、リーダー格の1番手。ユーモアとウィットに富んだ答えで場内を適度に笑わせ、適度に感心させる3番手。大ボケへの期待を決して裏切らない5番手。ところが、2番手と4番手の役割は、単なる「つなぎ」でしかない。

番組終了から十年以上が経ったいま、1番手経験者の多くは会社の経営者や中堅幹部として活躍している。3番手も、営業、勧誘、企画人員として優秀な業績を残していることが多い。5番手の大部分は社会的には失敗しているが、夕暮れ時の横断歩道で突然昭和50年代のヒット曲を歌い出すなどして、世間に対して今なお強烈な存在感をアピールしている。

1番手、3番手、5番手経験者に、昔は友達だったはずの2番手、4番手経験者の所在を尋ねてみたが、例外なく没交渉になっていた。かつて、そのような友達がいたことさえ思い出せない人もいた。番組の元スタッフの一人は当時を振り返って、2番手、4番手を務めた若者の相次ぐ蒸発が、放送打ち切りの最大の理由になったと証言する。

存在感のほとんどない彼らを、いったい誰が、何のために探し求めているのか。広告には連絡先としてFAX番号が記されているのみ。取材を申し込んでも、返答はなかった。広告を掲載した新聞社に問い合わせてみたが、広告主については何も知らないという。

手がかりは、意外なところで見つかった。政府科学技術会議の生命倫理委員会が、人間に対するクローン技術の応用を規制するべきとの提言に、次のような文言を付け加えたのである。

「ただし、晴天時、野外に立ったときの影の濃さが日本人の平均値の3%に満たない人のクローン技術による増殖は、その限りではない……」

国際社会では、クローン技術の応用は家畜がリミットというコンセンサスが形成されているようにみえる。しかし、これまで常に技術の最先端を目指してきた研究者たちに、生命倫理の観点から出発した論議でブレーキをかけることができるのかどうか、疑問視する関係者も多い。どこかの研究所が、フライングを犯すに違いない。それなら人類に影響を及ぼさない範囲内で、一定の研究に着手しておくべきだ。そんな主張が、上記の但し書きの背景にある。

存在感の軽さに詳しく、自らも「シルエット・クイズ」出演を収録直前にキャンセルされた苦い経験をもつ俳優の下条アトムさんは、

「学界が我々に注目したのは、正解だと思いますよ。我々なら300人いても500人いても、まったく周囲に圧力を感じさせませんからね。いや、私も長い間、存在感のある俳優を目指して、ひげをのばしたり、警察のお世話になったり、いろいろ試して

と語りながら、いつのまにか消えてしまった。

どうやら冒頭で紹介した二つの求人広告は、クローンの実験台の募集らしい。実験が成功すれば、日本の街角は、どこかで見たことがあるが、どうしても思い出せない顔に占領されてしまうのだろうか。真偽は定かでないが、関西のある国立大学で、矢沢透氏3人からなる「アリス」再結成に向けた研究が続けられているという、気になる噂もある。

最後に、筑波市内のバス会社に務める運転手の証言を紹介しよう。

「先週の日曜日、団体さんを乗せて、筑波山麓を回ったんですよ。直接のご依頼主は筑波大学さんでしてね。まあそういうことはよくあるんですが。海外からの留学生の方とかね。でも、今回はおかしいんですよ。バス3台に分乗した125人のお客さんが全員、小倉一郎だったんです」

どうやら、小倉一郎の複製がすでに始まっているらしい。一人の小倉一郎から、数人の小倉一郎が生まれ、数十人、数百人、数千人というペースで増殖する。日本のどの街角にも、寂しげな小倉一郎がたたずんでいる……。私は重い気持ちでさまざまな可能性を考えたが、結局、これといった不都合は思い浮かばなかった。

荒藤 奈樹児 (フリーライター)

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