異体字の別人にデスノートの被害

 遺影を見つめながら、未亡人となった高橋圭子さんがぽつりとつぶやいた。「普段と変わらない様子で、散歩に出かけたんです。まさかこんなことになるとは…」

 近所の公園を横切り、河川敷、駅前を通って自宅に戻る。夫の弘明さんが過去10年間、毎日のように歩いたルートだった。駅付近のマンション工事現場に差し掛かった時、突然強風が吹いた。鉄骨を吊り下げていたクレーンのワイヤーが切れ、鉄骨の下敷きとなった弘明さんは即死した。

 その日は朝からほぼ無風状態。強風の理由は不明だったが、警察が業務上過失致死の疑いで建設会社社員を書類送検する直前、現場付近に住む高校生のAが父親に付き添われて警察に出頭した。

 「いじめっ子の高橋弘明を狙ったんです。まさか戸籍上の名前が『髙』橋だったなんて…」

 日本大学の青木修吾教授(漢字学)は、「私たちは日常生活の中で『高』と『髙』などの異体字を深く考えずに混用しているが、デスノートの上ではまったくの別の字。殺したい相手の名前を書く際には細心の注意を払うべき」と警鐘を鳴らす。

 警察庁の調べでは、デスノートをめぐっては他にも「山崎」さんが「山﨑」さんの身代わりとなって死亡したり、「渡辺」さんが狙われたのに、同じ町内に住む「渡邉」さんと「渡邊」さんがそろって非業の死を遂げるなどの事件が相次いでいる。

 「髙を高に統合する、邊、邉を辺に一本化するなど、異体字の削減を長年怠ってきた国立国語研究所の責任は重い」と、青木教授は行政の不作為を批判する。

 一方で、デスノートが異体字を正確に識別することが徐々に知られてきたことも事実。都内に住む飲食店員のヨシ田貴教さんは、電話で「ヨシ田さんのヨシは口の上が士ですか、土ですか?」と問われた瞬間から、不安で眠れぬ夜を過ごしている。

カテゴリー: 社会 パーマリンク