ボウリング業界変える「ガター革命」

 「ファール3本打ったら、問答無用でバッターアウト。そんな野球が面白いと思いますか?」

 キングボウル(東京都駒込)の赤井範義社長(54)に、日本ボウリング評議会から除名されてまで独自ルールを採用した理由を尋ねたところ、強い口調でこんな問いが返ってきた。

 赤井が生まれた昭和40年代はボウリングブーム。父の清人が昭和38年に開いたキングボウルは連日満員で、週末の大会には東京はもちろん北関東からも腕自慢が集まった。昭和末期からブームは下火になったが、古参の従業員たちが丁寧に設備やレーンを入念に手入れして、館内のレトロながら心地よい空間を維持したことで、ベテランのボウラーからの支持を集め続けた。

 「継ぐ気なんてまったくなかったんですよ」と赤井は笑う。私大商学部を卒業して経営コンサル会社に就職。40歳で部長まで出世し、仕事にやりがいも感じていたが、いまから10年前に清人が急逝した。自分の幼いころから父とキングボウルを営んできた10人の従業員に辞めてくれと言えず、コンサルとして蓄えた知識が本物なのか確かめてみたいという気持ちも手伝って、45歳で社長に就任した。

 すぐに気がついたのは、業界全体に蔓延していた顧客軽視、クレーム軽視の体質だ。キングボウルはベテラン・ボウラーに支えられていたが、なかなか新しい得意客を集めることができないのは、その体質が原因だった。

 「初めてボウリングを経験した人は、素質のある人でも10%、素質のない人なら70%の確率でガターを出すと言われています。ガターの回数が多い人ほど、ボウリングの印象は悪くなる。ガターさえなければ、今頃週末ごとにボウリング場に足を運んでいた人も多いはずです」

 ボウリング場の各レーンの左右に残るガターの溝は、一度固まったらどんなに力を込めても開かないマジックインキのフタ、購入者に「丸ごと粉砕したろか」と一度は思わせるCDの包装フィルムと並ぶ、「日本三大放置欠陥商品」だ。赤井はそう言ってはばからない。業界の景気が良かったころは多少の欠陥があっても客が来たが、いまはそんな時代ではないと力説する表情は、コンサル時代に戻っている。

 社長就任の1年後には、全28レーンの4分の1のガターを埋め、隣接するレーンの間に壁を設置、初心者専用とした。ガターがなくなり、初心者がボウリングを楽しんでくれていることは、表情から明らかだった。日本ボウリング評議会からは世界統一ルールの遵守を強く要求され、従わなければ除名すると警告されたが、赤井は無視した。大学生、高齢者、主婦など、幅広い層で初心者がリピーターになるなど、顕著な効果があったためだ。

 心配していたのは、長年経営を支えてくれた上級者やベテランたちの反発だが、杞憂に終わった。オープン以来半世紀以上通っている小村登志夫(78)は、「私たちのレベルに達すると、ガターを出すことはまずないので、溝があってもなくても影響はない」と言い切る。「むしろ、若い人が増えてボウリング場に活気が出てきたのがうれしいね」。好意的な反応に自信を深めた赤井は、昨年末までに全28レーンのうち27レーンでガターを埋めた。

 キングボウルの成功に触発され、これまでは静観を決め込んでいた全国のボウリング場の中にも、一部のレーンで同様の改修を行ったり、ガターの溝にもピンを並べるなどの改革に乗り出すところが出てきた。いま、駒込の古いボウリング場を起点に、革命の波が全国に波及しつつある。

 赤井が見据えるのはさらにドラスティックな改革だ。残り1レーンでは現在、工事が行われているが、レーンの全幅にわたりガターのような溝が掘られており、ピンに近づくに連れて徐々に細くなり、緩やかな曲線を描いて先頭に立つ1番ピンとその右後方に立つ3番ピンの中間に達する。どんな初心者が投げても、8割以上の確率でストライクを出すことが可能だ。いまやボウリング業界の「風雲児」と呼ばれる赤井は語る。

 「全力のガター。すべてのピンが倒れるのを目で確認する直前、振り向いてガッツポーツ。そんな醍醐味を初心者にも味わってほしいんです」

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