緑ぼぶ助の電子コラム──電子新聞

 朝起きて、顔を洗い、玄関に新聞を取りに行く。こんなありきたりな動作が、ありきたりでなくなる日がやって来るかもしれない。インターネットを通じて、記事の内容を公開する新聞が増えているからだ。

 すでに、一般紙はもちろん、経済新聞、工業新聞、スポーツ新聞の最新の記事を、電子的に読むことができる。近い将来、大部分の新聞が有償ですべての記事を公開するだろう。材料費、印刷代、輸送費がかからないインターネットは、新聞社にとっても魅力的なメディアだ。

 では、「電子新聞」は「紙の新聞」よりも便利なのだろうか。そうだ、と答えた人は新聞の利用価値のもっと重要な部分を忘れている。

 筆者の友人は、最近、顔色が冴えない。「商売がうまく行かなくてね」。彼の稼業は、私立探偵だ。尾行の標的が喫茶店に入ると、探偵は標的から最も遠く、しかも見通しの良い席に陣取る。コーヒーを注文したあと、新聞紙に指で穴を開け、標的から一瞬たりとも目を離さない。それが、この世界の常識だった。

 しかし、ノートパソコンの液晶ディスプレイに、指で穴を開けるのは難しい。

「B5サイズのどこに隠れろって言うんだい。パソコンなんて、くたばっちまえ」

 友人が突き立てた中指には、分厚い包帯が巻かれていた。

 昨年あたりから、一般家庭のゴキブリが急増している。正確に言えば、ゴキブリの死亡率が低下している。長い間、ゴキブリが最も恐れていた武器は新聞紙だった。新聞紙なら安いし、操作は簡単で、しかもゴキブリ発見から数秒後に攻撃準備が整う。殺虫剤のスプレーよりもはるかに効果的だ。ところが「電子新聞」を購読している家庭に、新聞紙はない。急いでプリントアウトしても、「準備中」の表示が出ているうちにゴキブリは家具と壁のすきまに逃げ込んでしまう。かといって、ゴキブリに向かって17インチのディスプレイを投げ付けるのには筋力と勇気がいる。ディスプレイとパソコン本体が強靭なコードで連結されている場合には、なおさらだ。

 残念ながら、「電子新聞」という時代の流れを止めることは、筆者にはできない。それでも筆者は、「紙の新聞」の良さを未来につなげることで、最大限の抵抗を試みる。将来、新聞社から「電子新聞」の有料購読を奨める電子メールが来たら、こんな返事を書くつもりだ。

「掃除機つけてくれるんなら、3ヵ月分、契約してやるよ」

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