流しも定額で聞き放題

 池袋に残る最後の流し、木下裕司さん(63)が20日から業界初の定額制サービスを開始した。「画期的な試み」との評価が広がると同時に、「あまりに無謀」と前途を悲観する向きもあり、その成否に注目が集まる。

 池袋駅周辺の複数の飲食店の壁に貼りだされ、豊島区内の民家や団地に投げ込まれたチラシによれば、定額制契約を結べば木下さんが顧客と同居し、随時生ギターと生歌を聞くことができる。回数の上限は「俺のノドが潰れるか、ギターの竿が折れるまで」。レパートリーは1500曲程度と競合他社を大きく下回るが、歌詞の記憶があいまいで部分的にハミングに置き換えたり客いじりでごまかす楽曲も含めれば、約3000曲に達する。

 戦後間もない頃には池袋周辺で30人もの流しが活動していたとされるが、有線放送の登場で仕事が激減し、その多くが転職を強いられた。追い打ちをかけたのがカラオケの普及。レーザーカラオケが導入済であることを示す緑のオウムの看板が増えるのに反比例するかのように、流しに声がかからなくなった。4年前に最後の仲間が廃業してから、木下さんは池袋唯一の流しとして活動を続けてきた。

 「何もしなければ流しの火がこの街から消えるのはわかっている。ダメもとで若者しかいない店を訪ねたら、客の一部がイヤホンで音楽聞いているんです。アップルやグーグルに毎月定額料金を払って音楽を聞いていると知って、これだとひらめいたわけですよ」

 木下さんの強みは、WifiやLTEなどの高速データ回線を必要としないこと。先月行われた最終テストではビルの地下3階や富士の樹海といった電波が届きにくいところでも、沈黙するスマホやタブレットを尻目にスムーズに歌い続け、脆弱な情報インフラへの対応力を印象付けた。

 木下さんはものまねが得意で、テレビのものまね番組の予選に出場したこともある。レパートリーはディック・ミネ、村田英雄、田中角栄…。「村田英雄の『人生劇場』を田中角栄のアレンジで楽しめる定額制サービスは、世界で初めてのはず」と、木下さんは先行するIT大手へのライバル意識をむきだしにする。

 料金は手取りで月22万円(交通費別途)。他社の料金よりも割高だが、今後は店で見かけた富裕層向けへの売り込みを図る方針。異例のサービスだけに最初の1ヶ月は無料にしてほしいとの要望もあるが、「それは勘弁してください」(木下さん)。

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